認知症の親の不動産売却で罰則より怖い契約無効|犯罪になる境界線と成年後見制度の要・不要

結論からお伝えすると、親御様の認知症が理由でお子さまが不動産売却に関与する行為そのものを罰する法律はありません。
ただし、代筆や虚偽の手続きを行うと犯罪に問われる可能性があり、また罰則がなくても契約自体が無効になるリスクもあるため、不動産売却に関与する場合には、正しい境界線を知ったうえで手続きを進めることが大切です。
今回は、年間4,500件以上の不動産売買相談を承っている『すがコーポレーション』が、成年後見制度が必要なケース・不要なケースまで含めて、認知症が関わる不動産売却に関与する場合の実務を、わかりやすく解説します。
認知症の親の不動産売却で罰則より怖いのは「契約無効」

冒頭でお伝えしたとおり、親御様の認知症が理由でお子さまが不動産売却に関与する行為そのものに対する罰則はありませんが、「罰則がないこと」と「自由に売却できる」ことは別です。
不動産売買契約は、たとえ決済・登記ともに完了していたとしても、以下2つのケースに該当すると法律上「なかったこと」になる可能性があります。
| 契約無効になるケース | 内容 |
|---|---|
| 契約時、親御様の判断力がなかった | 認知症がかなり進み、契約の内容をまったく理解できない状態で結んだ契約は無効 |
| 親御様の判断力の低下につけ込んで契約をした | ・意思能力を欠くとまでは言えなくても、判断力の低下に乗じて著しく不利な条件で契約させた場合は無効 ・「医師の診断を受けていない」「診断が軽度の段階」でも該当 |
医師の診断がない状態で「判断力の低下につけ込んで契約をした場合」には、契約時の親御様の状態を後から証明できません。
そのため、「まだ診断を受けていないから急いで不動産売却手続きを進める」という判断は、かえって契約無効のリスクを抱えることになる可能性があるとお考えください。
【契約無効のリスク】
- 代金の返還
- 所有権移転登記の抹消
- 契約後にその不動産を取得した第三者(転得者)との間でもトラブルに発展
- 他の相続人から「本人の判断力が低下している状態で、不当に売却された」として損害賠償を請求される など
上記のようなリスクが発生することを想定できる場合には、早い段階で司法書士や弁護士に相談することをおすすめします。
「認知症の診断=即売却不可能」ではない
認知症には症状の程度に幅があり、初期の段階であれば、物忘れがあっても「自宅をいくらで売るのか」「売却したお金を何に使うのか」を自分の言葉で理解し、説明できる方は少なくありません。
そのため、「認知症の診断=即、不動産売却が不可能になる」ということはありません。
法律上で重視されるのは、「診断名」ではなく、「契約するその瞬間に意思能力があったかどうか」です。
| 状況例 | 契約の効力 |
|---|---|
| 診断を受けているが、契約日に司法書士との面談で「施設に入る費用にするために売却したい」など、自分の言葉で理由や内容を説明できた | 意思能力ありとみなされ、契約は有効 |
| 診断を受けていない、または軽度であっても、契約日に見当識を失っていたり、何にサインしているか理解できていなかった | 意思能力なしと判断され、契約は無効 |
親御様の判断力に不安がある場合には、ご本人の調子が良いタイミングを見計らって不動産売買契約を結ぶのではなく、ご家族が親御様の状態を共有したうえで、日頃の様子を含めて主治医や専門家に相談しながら進めるといった配慮が必要です。
また、不動産会社には「取引の関係者に対して信義を旨とし誠実に業務を行う義務」があり、司法書士は「本人確認・意思確認」を行うのが本来の職責ですので、「相談したら不動産会社や司法書士に迷惑をかけるのでは」「断られるだけでは」と遠慮する必要はありません。
こちらの記事で、不動産売買の際の「司法書士に支払う費用」「司法書士の役割」などをご確認いただけます。
〈関連ページ〉不動産売買の司法書士費用は誰が払う、使わないとどうなる|費用相場・業務内容を簡単解説
不動産会社や司法書士にも、認知症の不安などを早い段階で相談をしてサポートを受けることが、後のトラブルを防ぐ一番の近道です。
熊本県で認知症が関わる不動産の取り扱いにお悩みの方は、すがコーポレーションへお問い合わせください。
不動産売買だけではなく、不動産に関連するお悩みや手続きも、ワンストップでご相談・ご依頼いただけます。
認知症の親の不動産売却で犯罪になる境界線
認知症が理由でお子さまが不動産売却に関与する行為そのものに対する罰則はありませんが、以下のような行為は明らかな犯罪です。
| 行為 | 結果 |
|---|---|
| 親御様の同意無く、ご家族が売買契約書などに署名・押印 | ・有印私文書偽造罪 ・同行使罪 ・3月以上5年以下の拘禁刑 |
| 親御様が意思能力を欠いた状態でご家族が委任状を作成して、ご家族が委任状に署名・押印 | |
| 施設の職員が、本人に代わって書類に記入・押印 ※施設の職員には代筆の権限がない | |
| 意思能力がないと知りながら、親御様本人を契約の当事者として取引 | ・準詐欺罪 ・10年以下の拘禁刑 |
| ご家族が親御様になりすまして取引 | ・詐欺罪 ・10年以下の拘禁刑 |
〈参考〉刑法
・有印私文書偽造罪、同行使罪:第百五十九条1項、第百六十一条
・準詐欺罪:第二百四十八条
・詐欺罪:第二百四十六条1項
認知症の親の不動産売却で成年後見制度が必要なケース・不要なケース

「自分たちのケースでは成年後見制度が必要かどうか」は、ご家族が選ぶものではなく、親御様の状態によってある程度自動的に決まります。
※成年後見制度は「法定後見制度(判断能力低下後に利用)」「任意後見制度(判断能力低下前に利用)」の2種類で、当記事でご紹介する「成年後見制度」は、「法定後見制度」の内容です。
成年後見制度が必要なケース
以下どちらかに該当する場合、成年後見制度の利用が必要です。
- ご本人に意思能力がなく、契約の内容を理解・判断できない状態にある
- 今すぐ不動産を売却する必要があるが、ご本人が契約日に意思確認に応じられる状態ではない
これは、不動産を「売る」だけでなく「貸す」場合も対象になります。
親御様が現在住んでいる・住んでいた建物・敷地(居住用不動産)を処分する場合、成年後見人が家庭裁判所の許可を得たうえで実行しないと、処分は無効になります。
【処分の内容】
- 売却
- 賃貸、賃貸借の解除
- 抵当権の設定 など
過去に生活していた建物・敷地は、「今は施設に入っている」といった場合でも「居住用不動産」として扱われるため、注意が必要です。
「親御様の不動産を売却する際に荷物をどうするか」について、こちらの記事でトラブル予防策をご確認いただけます。
〈関連ページ〉家の売却は荷物そのままでも可能だがトラブル防止策は必須|売却方法、売却額、片付け費用も解説
成年後見制度が不要なケース
一方で、以下に該当する場合、不動産売却の際に成年後見制度は不要です。
| 成年後見制度が不要なケース | 備考 |
|---|---|
| ご本人に意思能力があり、すぐに売却したい | ・通常の不動産売却(ご本人が売主として契約を結ぶ)が可能 ・契約日に、司法書士がご本人と面談して、本人確認・売却意思の確認 ・司法書士の面談内容を記録しておくと、後から契約の有効性が争われた場合の重要な記録となる |
| 不動産売却を急いでいない | ・「相続してから売却」を選択できる ・相続後の不動産売却には減税制度が使える可能性がある |
| ご本人に意思能力はあるが、今はまだ売却しない | ・将来判断力が低下したときに備えて、不動産を売却できる状態にしておきたい場合の選択肢は「家族信託」「任意後見契約」 ・「家族信託」「任意後見契約」はご本人に意思能力がある場合のみ契約を結べる |
「家族信託」「任意後見契約」については、どちらも親御様ご本人が選択して契約を結ぶものです。
「家族信託」は、財産の管理や処分を信頼できるご家族に託し、得た利益をご本人が受け取ります。
「任意後見契約」は成年後見制度の一種で、将来の判断力低下に備えて、ご本人が財産管理や生活支援を頼む人(任意後見人)を指定しておく契約です。
熊本県で親御様の不動産売却についてお悩みの方は、すがコーポレーションへお問い合わせください。
専門家と連携しながら、トラブルのなくスムーズに不動産を売却できるようサポートいたします。
現行の成年後見制度と改正内容|期間・費用・誰が後見人になるのかなど

成年後見制度は2026年に改正されたため、最後に「現行の成年後見制度」「改正内容」も一緒に確認しましょう。
成年後見制度の申立てから審判までは2ヶ月ほど
成年後見制度の申立てから審判までの期間は2ヶ月以内が多く、大まかに以下の流れで手続きをします。
「医師が作成する成年後見用の診断書」など、必要書類の準備・収集(約1〜2週間)
↓
家庭裁判所への申立て(面接の予約)
↓
調査・審理(約1〜2ヶ月)
↓
審判(成年後見の開始を決定し、ご家族や弁護士など最も適任と裁判所が判断した人を成年後見人として選任)
↓
審判の確定(審判から約2週間後)
↓
後見登記・利用の開始(法務局へ自動的に登記される)
本人の判断能力の「鑑定」が必要なのは3%
「調査・審理」の過程で、家庭裁判所が必要と判断した場合に「医師による鑑定(本人の判断能力を医学的に評価する手続き)」が行われることがあります。
ただし、鑑定が実施されるケースは少なく、全体の約3.4%です。
〈参考〉裁判所ウェブサイト『成年後見関係事件の概況』令和7年1月から12月まで>9ページ
「鑑定によって、成年後見制度の利用までに長い時間と高額な費用がかかる」というイメージをお持ちの方が多いと思いますが、実際には以下のような状況です。
- 期間:1か月以内が約52.6%、2か月以内が約89.4%
- 費用:10万円以下に収まるケースが約85.8%
〈参考〉裁判所ウェブサイト『成年後見関係事件の概況』令和7年1月から12月まで>9ページ
成年後見人となるのは誰

成年後見人に選任されるのは、親族が約16.4%、親族以外が約83.6%です。
- 司法書士:約33.5%
- 弁護士:約24.9%
- 社会福祉士:約20.4%
〈参考〉裁判所ウェブサイト『成年後見関係事件の概況』令和7年1月から12月まで>10〜11ページ
成年後見人は「本人の意思を尊重し生活状況に配慮する義務」を負っていて、誰が成年後見人に選任されても、居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が必要になる点は変わりません。
成年後見制度の相談窓口と費用助成
成年後見制度の利用を検討する際は、はじめに家庭裁判所や地域の相談窓口にご相談ください。
なお、「申立て費用」「成年後見人等への報酬」などの費用については、一部を助成する制度を実施している自治体もあります。
【例:熊本市「熊本市成年後見制度利用支援事業」】
- 審判請求(市長申立て):本人・配偶者や4親等以内の親族による申立てが期待できず、放置できない状況の場合に、市長が申立てをする。
- 審判請求に要する費用(申立費用)の負担:市長が申立てをする場合の手数料・登記料・郵便料・診断書作成料・鑑定料を市が負担する(生活保護受給者などを除き、費用をご本人の負担とするよう家庭裁判所へ申立てが行われる)
- 成年後見人等に対する報酬の助成:後見人等への報酬支払いが困難な場合に、在宅の方は月額28,000円、施設入所中の方は月額18,000円が上限※ など
※助成の対象となるのはご本人(成年被後見人・被保佐人・被補助人)で、成年後見人等が配偶者・直系血族・兄弟姉妹にあたる場合は対象外です。
成年後見制度は2026年改正、2028年施行(予定)

成年後見制度は2026年6月に大きく改正され、遅くても2028年12月24日までに施行されます。
| 比較項目 | 改正前 (現行制度) | 改正後 (新制度・予定) |
|---|---|---|
| 制度の構造 | 本人の判断能力(事理弁識能力)の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3区分に分かれている | 「補助の制度」に一元化 |
| 利用できる範囲 | 判断能力が極めて不十分(後見)と認定されると、成年後見人が一律に包括的な代理権・取消権を有し、本人の自己決定が必要以上に制限されていた | 本人に必要な範囲でのみ利用できる |
| 重度の判断力低下への対応 | 包括的な制限を受ける「後見」を適用せざるを得なかった | 判断能力を欠く常況にある場合でも、法定の重要な財産行為をすべて取消可能とする「特定補助の仕組み」を任意に選択・利用可能 |
| 利用期間(途中のやめ時) | 一度制度を利用し始めると、遺産分割などの当初の目的(利用動機となった事務)が終了しても、判断能力が回復しない限り一生やめられない | 判断能力が回復していなくても、当初の目的を果たして制度利用の必要がなくなったと家庭裁判所が認めれば、途中で制度利用を終了できる |
| 選任時の意思尊重 | 本人の意見や適任者を尊重するための明確な考慮基準が不十分だった | 「本人の意見」が最優先される |
| 職務執行時の意向把握 | 本人の意向に沿わない事務が一方的に行われるおそれがあった | 情報提供や聴取など適切な方法を用いて「本人の意向を把握する義務」が法律上明確化 |
| 支援者(補助人)の交代 | 後見人等の交代が困難 | 柔軟な交代や解任が可能 |
| 報酬決定の透明性 | 本人や後見人等の資力以外の考慮要素が法律上明記されておらず、予測が難しかった | 補助人が行った事務の内容等を報酬の考慮要素とすることを規定上明確化 |
| 他法律の制限(欠格条項など) | 商法や会社法、民事訴訟法など61の異なる法律において、「成年被後見人」や「被保佐人」を対象とする各種制限が存在 | ・改正に伴いこれらの制限規定を削除、または「特定補助人を付する処分の審判を受けた者」等に置き換えて整理 ・民事訴訟法上の「訴訟無能力者」は「訴訟能力を欠く者」に見直される。 |
| 【関連改正】遺言制度 | 自筆証書遺言の手書き負担が大きく、デジタル化にも未対応で、押印が必須だった | 「保管証書遺言」(電子データ作成・法務局保管)が創設され、押印も任意化されて格段に使いやすくなる。 |
〈参考〉 法務省ウェブサイト『「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について』
ただし、成年後見制度の見直しが施行されるのは遅くとも2028年12月24日まで(遺言の押印の任意化等は2027年6月24日まで、保管証書遺言の創設等は2029年6月24日まで)で、施行までの期間は現行の制度を前提に手続きを進める必要があります。
まとめ
「親御様が認知症の診断を受けた」「判断能力が低下し、認知症の疑いがある」といった状況で不動産の取り扱いにお困りの方へ、親御様の状況別にリスクや不動産売却方法などをご紹介してきました。
認知症を理由に不動産売却そのものを罰する法律はありませんが、不動産売却にはさまざまな手続きがあり、お子さまの関与について法律上の取り扱いを把握していないと、意図せず私文書偽造などの犯罪行為を実行してしまう可能性があります。
不動産売却後に契約無効や犯罪のリスクに怯える事態とならないよう、今回ご紹介した情報をご活用いただけると幸いです。
認知症が関わる不動産売却には、不動産会社などの専門家のサポートがあるとリスク予防やスムーズな手続きに役立ちます。
熊本県で親御様の不動産売却について疑問や不安をお持ちの方は、すがコーポレーションへお気軽にお問い合わせください。



